2022年良かった作品!!

 やります。

 2022年は、それほど作品数はこなせなかったものの、良い作品に巡り合えた年だった。2021年は琴線に触れる作品が少なく、感受性が鈍ってしまったのかと不安になったが、そんなことはないのだと安心させられた。少なくとも中学生の時くらいの感受性は維持しておきたいのだ。

 作品の良し悪しは、今の所「熱意」で判断していて、何かしら訴えたいことがあれば良い作品だったな、と思うことにしている。

 

映画

 

クリスチーネ・F

 ようやく観た。本当に良かった。GEOのレンタルで借りた。

 ストーリーは単にベルリンに住む14歳の女の子が薬物に溺れて破滅する話だが、そこに至るまでの過程が、淡々としているけれども嫌な映画。

 この映画から感じたことを言葉で説明するのは難しい。観終わった後、虚無感と謎の爽快感が残る。原作は、作者の実体験をもとにして書かれたもので、それを忠実に再現しようとする誠意を感じる。役者と舞台と時代が奇跡的に噛み合っており、独特の雰囲気を醸し出している。「奇跡的に」なんて大袈裟かもしれないけれど、映像にはなかなか出せないアングラな雰囲気が漂っている。大企業のビルと、駄弁る子供たちを一緒に写したカット、公衆トイレで注射器を手にする主人公、などなど、暗いシーンが盛りだくさん。主人公がラストに近づくにつれ、ボロボロになっていく姿もリアル。

 主人公が薬物に手を出すきっかけも、劇的なことがあったわけではなく、ただ退屈で、家族のことでちょっと問題があって、好きな人がたまたま薬物をやっていて、という、誰にでも起こりうるシチュエーション。

 保健の時間に見せたら、教育に良さそう。ただ、薬物のことだけではなく14歳の退屈さ、鬱屈、行き詰まりなど、痛々しい何かがこの映画にはある。

 監督のインタビューで語られていた役者の演技指導の裏側も興味深かった。薬物を射った時にどうなるのかは詳細に説明せず、「だんだん眠くなる感じ、伸びていく感じ」など、子どもにわかりやすい説明で指導したとのこと(この辺うろ覚え)。撮影当時は実際、ベルリンの動物園駅に薬物中毒の子供が立っていたそうで、まず彼らから受け入れてもらえることから始めたとも語っていた(ここもうろ覚え)。

LA HAINE(憎しみ)

 申し訳ありません。どう観たかはお察しください。DVDにプレミアがついており、どう考えても無職に手が出せる値段ではなかったからです。しかし再販されたら必ず購入したいと思っています。

 本当はこんなところに書かない方が良いのだが、書かずにはいられないほど、良い作品だった。これまで見た映画の中で上位に入る。構図も音楽の使い方も、ストーリーも洗練されている。その洗練というのは、舞台が芋くさい団地だったり、普遍的で不器用な友情を描いたからこそ映えるカッコ良さだった。

 たまたま銃を手に入れてしまった主人公。それを使ってやろうと意気込むものの、さてどうなるか、という話。

 正直、同系統の映画で言えば、トレインスポッティングよりも質が高いと思った(私はトレインスポッティングはかなり好き。T2も良かったしね)。ひとつひとつのシーンが、あまりにも日常で良い。団地に響く、誰かのDJの音楽の下で、住人がバスケやってるシーンとか。センスもいいしメッセージ性もあるし。洒落てるし。何だこの映画。それでも「カルトムービー」と呼ぶことを許さない揺るぎなさがあると思うのだよ。

 ↓ティザーPVだけでも魅力は十分伝わると思う。

 

www.youtube.com

 

 いらない情報だけれども、今年出る拙作の1つのスチルは、この映画の1シーンをパクった。すみません。ごめんなさい。

 

 他には「普通の人々」「ボウリング・フォー・コロンバイン」も良かった。

 「普通の人々」は、名作と呼ばれるだけあって、丁寧な作りをしている作品だった。まあ、都合がいいよな、という場面はあったにせよ(カウンセラーがめっちゃいい人やな、とか、主人公が仲良くしていた女の子の最後とか)、テーマを表現するためなので特におかしいとは思わなかった。

 

ドラマ

メア・オブ・イーストタウン

 上手い。作りが。まとまっている。固い。些細なこと(些細でもないが)を描いているのに、きっちり見せ場とオチがついている。すごい。

 とある郊外の小さな田舎町で、シングルマザーが殺される。主人公は捜査に乗り出すが、犯人探しは難航する。犯人となりうる人物は、ほとんど彼女の顔見知りか知り合いだった。

 すごく好きなシーンがある。捜査の応援に、主人公の所轄に州からやり手(?)のコリンという刑事がやってくる。主人公のメアはコリン刑事に最初反感を抱いている。しかし物語中盤、捜査が難航していることから、メアはコリン刑事に、過去にどのように事件を解決したのか聞く。そこで彼は、

 「特に秘策はない(No magic.)。ただ熱心に捜査しただけだ」

 と返す。

 ちょっと心を動かされた。一般に天才キャラ、頭が良いキャラクターというのは、常人が発想できない方法で物事を解決する、と描かれがちだし、読者もそれを求めている。しかし実際の頭が良い人というのは、大体は地道に手数を積み重ねて何かを成し遂げていることが多い。あんまり派手さがないので、エンタメの中で描かれることはあまりないかもしれないが、この作品はきちんと能力の高い人物を人間味のある形で書いていてとてもよかった(さらにこのセリフには、物語が進むと、もう一段階のひねりがある)。

 

Fargo シーズン1、2

 軽いノリで人が死んでく。ジャンルとしてはブラックコメディらしい。確かに、セリフには大体ひねた笑いが入ってたりする。サラッと見れて面白い。現在シリーズは4まであり、全てのシリーズに警察官・市民・殺人者の3つの陣営?が含まれているのが特徴。そして市民はちょっとしたきっかけや偶然で、殺人を犯してしまう。話もまあ、綺麗に収まってるし。

 

 あとは「ケイゾク」の記事をBadCats Weeklyさんに寄稿させていただきました。ばじるちゃんに文章を手直ししてもらっているのでちゃんとしたものになってると思います。

【ノベルゲーム講座】第4回:ノベルゲームの演出を、刑事ドラマ『ケイゾク』から考えてみる | BadCats Weekly

 
小説
アサイラム・ピース

 アンナ・カヴァンの短編。ほしい物リストから、ななださんからいただいた。本当にありがとうございます。

 文章を読む快感がある。読んで良かった。ほぼ著者のエッセイなのかな、と思った。他人に迷惑をかけていることをわかりつつも内側に内側にこもってしまう女の人。まあ、そういうことはある。周りからはこの人が苦しんでいることは一切わからないし、この人もそれを自覚している。

とうもろこしの少女、あるいは七つの悪夢

 J・C・オーツの短編。これめっちゃ良かったです。やっぱり表題作が好き。なんというか、ここまで憎しみを文章で書けちゃうのすごいし、もっと言えば、羨ましいなーとか思った。展開もちゃんとエンタメしてるし(してるか?)。文章も読んでいて楽しいし、密度がある。

パトリシア・ハイスミス作品いろいろ

 この人に関しては色々なところで書いているので、今更書く必要もないかとは思うが、しかし2022年一番読んだのはハイスミスなので、書かざるを得ないのだ。

 短編集「回転する世界の静止点」「目には見えない何か」「11の物語」を再読した。やっぱ面白い。個々の感想は色々あるけれど、主には上に書いた2人の作家とハイスミス、何が違うのかを考えてしまった。

 ハイスミスは文章を読む快感を追求するタイプの作家ではない。文章は平易で、密度があるわけではない。淡々と情景と出来事を描写し、たまに意地悪な心理描写が挟まるくらいで。行為も心理描写もわかる人はわかる程度にしか書かれておらず、上品すぎる(ここがハイスミスの好きなところなので、褒めさせてください)。ブコウスキーやパラニュークほどの破天荒さもないし。さらに、しばしば「ミステリー」と銘打って売り出されているが、そもそも彼女はミステリーを書いていない。ここにも不幸なずれがある。なので物語を読んでも、全体的に何も起こらず、退屈だと感じる人はいるだろう。

 ハイスミスを読んで驚く層が狭いんじゃないだろうか。ヨーロッパでは人気らしいけれど。

 私の周りでハイスミスを読んでいる人をほとんど見たことがないし、いても積んでいる。理由は上記に挙げたものじゃないかと思ったりする。ただ、彼女は現在においても新しい視点を持った作家だと思うので、興味を持った方はぜひ読んでほしいと思う。

 ちょっとまとまりがなくなりそうなので、ハイスミスに興味を持った人におすすめする本を挙げて終わりにする。

 短編「11の物語」 特に「ヒロイン」を最初に読んだらいいと思う。この話が好きなら、おそらく合うと思う。ヒロイン願望を持った家政婦のお話。これ1940年代に書いたのはほんと、すごいと思う。Twitterの読み切り漫画でこういうのありそうだもん。

 長編「キャロル」とっつきやすい。

 「愛しすぎた男」初っ端から飛ばしているので読みやすいかも。架空の恋人との生活を妄想している主人公が出てくる。

 「太陽がいっぱい」面白い。ただ、初心者に薦めるかと言われると、好き嫌いは分かれそうな気がする。

 

 他「偽装死で別の人生を生きる」「ヤンキーと地元」「アップルパイ神話の時代」面白かった。「椎名林檎論」買ったので読みます。

 

漫画

 特に読んでない。「モテキ」面白かった。あと華倫変を貸してもらって読んだけどこれも面白かった。てか華倫変って病んでるわけじゃないよね。

 中村汚濁先生の「初潮」を、スピリッツで読んだ。先生の漫画を言葉で解説するのは難しい。言葉で届かない部分を描いてくれるので。

 汚濁先生の好きなコマはたくさんあるけれど、特にここがお気に入り。

 見開いたノートに「同じ偶像崇拝」とバシッとセリフが決まってるのがかっこいいと思った。(「天使に食べられたい」)

 この漫画の場合、多くの説明なしで、セリフと少ない言葉で構成されてるのがとても良い。説明あったほうがいい人もいるかもしれないけど、私はなくていいと思う。

 これは別の漫画のコマ。(「超能力少女と失恋」)なんだか文学的で痛々しい。汚濁先生の作品のいいところは、痛さを客観視して、なおかつそれを肯定しつつ、たまに否定しつつ描いているところ。痛さを客観視するって、難しいことだと思う。やっぱどこかでカッコつけちゃうところがあるもん。

 

ゲーム

NIKKE

 私は、決してエッチな絵のために、このゲームをやっているのではありません。あくまでストーリーを追うためにやっているのです。

 本当です。

 クリスマスに課金なんかしてません。

 本当ですから。

 マジで、メインストーリーが面白いのは本当です。ポストアポカリプスというのか。人類がラプチャーという生物兵器にほぼ抹殺された後の未来、人間は地下に住み、地上の奪還を目指すという話。

 特にアニスが好き。あんまりソシャゲとか詳しくないけれど、こういうキャラをメインに持ってきていいんだと思った。

 アニスは一見明るくて皮肉屋の女の子だが、過去に何か辛いことがあったのか、心を閉ざしている。他者が信用できないらしい。過去を頑なに話そうとしない。プレイヤーの分身である指揮官にも完全に心は開いてくれない。そして他人を疑うあまり衝突を起こすこともある。

 私が好きなやりとりがこちら

 

 指揮官が気を利かせて、冷蔵庫に炭酸水を補充するけど何味がいい?って聞いた後、アニスがその行為の真意をなぜか疑ってくる。

 そして疑ったわけは言ってくれない。だって自分の猜疑心がバレたら恥ずかしいもん。なあ。これって最高に少女じゃねえか?もっとアニス書いて運営さん。アニスのイベントが欲しいです。ニケはアニスがいないとマジで成立しないから。

 あと地味なポイントとしてプレイヤーからの自発的なセクハラがほとんどない。こいつらのカッコがもうセクハラかもしれないけどそれは置いといて。

 それはおそらく、相手を尊重する、というメッセージがニケの根幹にあるからだ。

 機械であるニケは「指揮官様に絶対服従」というルールが設定されている。しかし、みんな完全に指揮官のことを尊敬しているわけではない。ストーリーでもニケたちを気遣って、こちら側が譲歩する場面が結構ある。それがわかるとニケ側が初めて指揮官側を気遣ってくれたりする。そう、突然キャラに接待されたいわけじゃない。接待したい。私はMです(デスノート)。

 

 あとは「さよならを教えて」の記事をBadCats Weeklyさんに寄稿させていただきました。

【ノベルゲーム講座】第5回:新作『Silence of Switchblade』の原点を訪ねて 〜『さよならを教えて』における狂気とは 〜 | BadCats Weekly

 

制作中のゲームについて

 色々と言わなければならないことはあるかと思うものの、言えない。すみません。今しばらくお待ちいただけますと……。てかアーリー版とか誰もやらないと思ってたのにやってくださった方々がいるらしくて、もう震えてます(今自作のエゴサすると気持ちが折れそうなので全然感想見てません、すみません)。

 アーリー版の100倍面白くなるので……。いやハードル上げんなよ。そこに至るまでも色々紆余曲折があったんです……。言い訳言い訳……

 

2022年私事まとめ

 面白くないです。自分のために書く。

 一人暮らしを始めたり、仕事辞めたり(まだ次の仕事見つかってねえし、バカ)、ゲームを作りながら鬱々としたりした。

 2023年の目標としては、もうさっさとゲームを出すことと、就職。あとは、いろんな人と会う。まあこれは、あくまで努力するってことで……コミュ障。

 2022年に起こった人生の大きなイベントは、両親が離婚したことかもしれない。ここに書くべきか迷ったけど書いてしまう。

 離婚なんてありふれたイベントだと思っていたが、離婚届に判を押した後の父親を見て、ビビった。父親は泣いていた。正確には、泣いた後のようだった。あれほど悲壮感漂う父親を見たことがなかったし(よく父親を観察したこともないけど)、次に見るとしたら身内が死ぬ時くらいだなと思った。両親の仲は長い間冷え切っており、物を投げたり怒鳴り合いの喧嘩がよく起きた。だから情など残っていないと思っていたのだが。

 ここで痛感したのは、当たり前だけれども、離婚という「ありふれた」ことが、実際にはかなり辛いのだろうということだった。知り合いでも若くして離婚した人を何人か知っているが、その人たちもかなり精神的に参っていたようだった。

 こういうことがあると——物語の話になるが、悲惨な出来事、イベントをフィクションでただ書き連ねることの無意味さを感じる。

 他人と違う出来事、珍しい出来事ほど悲惨さの度合いが強い、なんて思ってしまう風潮があるように思う。しかし悲惨さ=その人の感じた悲しみ、ではないし。取るに足りないことが、人生に傷跡を残すことはある。でも、それを周囲に言っても「よくあることだね」で終わらされてしまう。そのためには悲しい物語を作り上げなければ、わかってもらえない。仕方のないことかもしれないけれど。

 だからこそその救われない部分を拾う物語が描けるようになればいいな、なんて思った。他人にわかってもらうよりも、物語にわかってもらえる方がまだ可能性があるとも思うし。

 ……とはいえ、私の話に戻るが、
 私はやはりサスペンスを書きたいし、殺人のイベントは、絶対に外せない。そのため、どうしても過激になる。フィクションでしか人を殺せる場所なんてないので、人間の心理はちゃんと書けるようになりたいけれど、同時に私は気が済むまでこの箱庭で遊びまわるつもりだ。

 

 (個人的な家族の事柄は、普段なら一回書いて絶対に消すが、今回は残すことに決めた。所詮、やはり「ありふれた」ことなので、これを書かないということは私が逆に離婚というものを重大に捉えている感じがして、癪だった)